酒とアート、飲むと観るでノミルです

落下するネズミ

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僕がいま住んでいる家は
築90年の町家で非常に古い家です。
どれくらい古いかというと、
畳をはがすと下から
1964年の東京オリンピック」の記事が
掲載された新聞が出てくるほど古い。
とにかくボロくてワンルームマンションなんかより広くて
家賃が安いというのが売りの家なのです。
当然ながら、夏は非常に暑く、冬は息が白くなるほど寒い。
トイレは離れにあり、しかも和式でかろうじて水洗である。
この家の訪問者達は「味がある家ですね」と口を揃えて言う。
(つまりは、ボロいですね。こんなとこよく住めますね。ということです)

そんな家なので、当然のようにネズミが出るのです。
引っ越してきた当時は千葉にある夢の国よりも
マウスの数は多かったのではないかと思う。
夜な夜な天井裏でパーティが繰り広げられ、
台所は彼らにとってビュッフェ形式の
レストランと化してしまった。
夜中にフッと台所に面したすりガラスに目を向けると
『ファンタジア』のミッキーマウスのように
シルエットが浮かび上がっていることもあった。

実害もあった。
米から小麦粉、砂糖や石けんに至るまで
なんでも齧られてしまうので
いちいち捨てなくてはならない。
このままでは拉致があかないと
慌てて食品保存用のプラスティックケースを購入し、
ネズミのものと思われる穴をセメントで塞ぎ、
なんとか一旦は静まったのです。

が、しかし、だ。
最初の一族が収まっても次なる一族が現れる。
ラットホールをセメントで塞いでもうちの家は土壁。
すぐに新たな穴が空いてしまう。
しばらく無事だった食べ物に対する被害も大きくなってくる。

食べ物を齧られるのも嫌だけど、
夜に一人で仕事をしているときに
ととととととと、という足音が気になって仕方がない。
唐突に出現されるのも困るものです。
犬や猫なら見慣れてから良い。
ゴキブリもまぁ、良しとしよう。
しかしネズミは”いる”事は知っているけども
生で見る機会というのはそれほどない。

一度、台所を通ろうとしたら
目の前にネズミが天井の梁から落下してきたことがある。
その瞬間、一体何が起こっているのか分からなかった。
ネズミが降ってくるなんて
インディ・ジョーンズ以外にありえない。
ネズミは落ちた後にすぐさまどこかへと去っていった。
どこかと言っても家の中だ。
そして台所を通らないと部屋には戻れない。
…通りたくない。
歩き始めた瞬間に足元をネズミが駆けまわるという
想像をしただけで涙がこぼれ足が震える。
いまならドラえもんと固い握手ができるに違いない。
ハグをしてもいい。どら焼きだっておごってあげれる。
そんなバカな想像をしながら時が過ぎ去るのを待っていた。
ネズミは出てこない。
向こうも人間が去っていくのを物陰で待っているに違いない。
…どちらが先に動くか。
まるで西部劇の決斗である。
おれはいまクリント・イーストウッドだ。
ただ相手がネズミで
自分の出で立ちが短パンにユニクロのTシャツなだけだ。
動きはない。相手は去ったか、油断をしている。
今しかない。
わたしは全速力で駆け抜けた。
自分の家の台所を。
持ちいる瞬発力を全て使って。
脇目もふらずに。
メロスは激怒した。
くらいの勢いで走った。
部屋の前までたどり着き、台所へと振り返る。
そこにはだれもいなかった。
ネズミ一匹いなかった。
蛍光灯の色が寒々しい、いつもの静かな台所だった。

2015-11-24 | Posted in danpen

ライター紹介

西出 元

Nomiru ディレクター、撮影、イラスト、会議中に腹が減ったと晩御飯へと促すことを主に担当。企画が進まない原因の一人。
ディズニーランドとUSJに行ったことがなく、それに対する憧れが高まっていき、ハードルが上がりすぎて逆に行けなくなっているが最近の悩み。
好きなお酒は辛口の冷酒。好きな肴は白子ポン酢。


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