酒とアート、飲むと観るでノミルです

ハイネケンめ!

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ビールを飲むとトイレに行きたくなる。
それは真理だ。
…いや、真理ではあるかもしれないが、
真理という言葉を使うほど大したことではない。
それでも、ハリウッド映画やアメリカの小説なんかでは
このビールを飲んだあとにトイレに行くという
シーンがちょくちょく出てくる。
 
どこかのさびれてる上にやさぐれたバー。
男二人が狭苦しいボックス席で
向かい合いながらビールを傾けている。
話題はすでに一巡したようだ。
その時、瓶をのふちを指で(ごつい指だ)なぞりながら
男が意味ありげな視線を主人公に向ける。
「俺がいま、どこに行きたいか…お前に分かるか?」
主人公の男(女でもいいけど)、
少し警戒した表情を浮かべながら
それを悟られないように軽く応える。
「さあね?」
男、瓶をテーブルをコトンと置き、
のっそりと椅子から立ち上がりながら
「ビールを飲むとトイレに行きたくなる。
 それは真理だ」
軽く微笑みながらながら
主人公の肩を叩き、トイレへと向かう男。
全く!緊張させやがって!
主人公は消えたトイレのドアを睨みながら深い溜息を付き、
ぬるくなったビールを一口、ごくりと飲む。
そのとき、携帯電話に着信音がなった…。
おや?メアリー、こんな時間に珍しいな…。
 
ま、だいたいこのように
物語において(なぜだか)不穏な動きの
兆候としてトイレに立つ…という場合が多い。
くだらない何かを挟むことによって
緊張の緩和という演出の意味があるのかもしれない。
(映画の人じゃないので正しいことは分かりませんけど)
ただ、そういう演出的な意味もあるのだろうけど、
やはり、こういう経験が脚本家なり、
監督が経験していたからこそのシーンではあろうと思う。
酒の席でトイレに立つ、
一瞬、微かに不穏になるあの独特の瞬間。
とくに二人で飲んでる時ならなおさらだ。
 
そのようなシチュエーションで
もっとも好きな作品が
デヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』だ。
カイル・マクラクラン演じる主人公が
レストランでハイネケンを飲みながら
女性を口説くシーン。
会話が盛り上がって良い雰囲気…
というところで我慢が出来ず
トイレに立ってしまう。
そしておしっこをしながら悪態をつくのだ。
「ハイネケンめ!」
 
そのセリフをカイル・マクラクランが言った瞬間、
僕はハイネケンのファンになってしまった。
なぜだか、分からないが
 僕自身が酒の席でトイレがものすごく近くなる
ということは関係しているのかもしれない。
大事な話なときに限って、トイレに行きたくなる。
そういう経験が一度ならず、二度も三度も、
もはや数えきれないほどある。
(成長がないということかもしれないが、
 それはさておき…)
しかもトイレに誰かが入ってたりすると
会話なんてもはや上の空だ。
ただ、トイレに行きたい。
目の前の人がデート中の女の子だったしても
面白おかしい会話が得意な友人だったしても
目線は常にトイレのドアに向いている。
相槌だってテキトーになる。
テキトーだと当然バレる。
「あの…聞いてます?」
「うん?聞いてるよ。もちろん」
(あぁ”そんなことより”トイレ空かねぇかなぁ…)
そして、トイレが空いたその瞬間、
それは、大抵、相手の話がピークの瞬間でもあるのだ。
「ちょっと、トイレに…」と口にしたときの相手の表情よ。
しまった、と思うものの、ダムはもはや決壊寸前である。
選択肢はこれしかなかったのだ。
ビールを飲むとトイレに行きたくなる。
それは真理だ。
そう自分に言い聞かせてトイレへと向かう。
そして小便器に立ち、あのセリフを思い出し、
思わず口に出してしまうのだ。
「ハイネケンめ!」
 
2015-07-17 | Posted in danpen

ライター紹介

西出 元

Nomiru ディレクター、撮影、イラスト、会議中に腹が減ったと晩御飯へと促すことを主に担当。企画が進まない原因の一人。
ディズニーランドとUSJに行ったことがなく、それに対する憧れが高まっていき、ハードルが上がりすぎて逆に行けなくなっているが最近の悩み。
好きなお酒は辛口の冷酒。好きな肴は白子ポン酢。


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