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マブチの水中モータ

スクリーンショット 2016-05-21 1.57.21

 

プールに通い続けています。
かれこれ1ヶ月と少し。週3日で通っているので、なかなかのペースではないでしょうか?
僕が主にいるコースはプールの一番端っこにある水中ウォーキングコース。
10分ごとに歩き方を変えて3セット合計30分のウォーキングをした後に、横にある初心者コースに移動し、クロール”的”な泳ぎでヨロヨロと25メートル泳いでぜいぜい言っている訳です。
プールには、ウォーキングコースと初心者コース以外に、中級者コース、上級者コース、自由遊泳コースに分かれていて、それぞれが自分のレベル(たぶん自己判断)に合わせてコースを選び泳いでいます。
25メートル泳いで息が上がっている僕は当然、初心者コース。しかし、その初心者コースにもけっこうレベルの差があって、上級初心者の前をモタモタと泳いでいるとすぐに追いつかれてしまう。ただ、追いつかれても、本人は自分が泳ぐことで必死なので後ろまで気を使っていられない。プールの端までいって、後ろに振り向いた瞬間に追いつかれていることが気づき、あぁ、なんだか申し訳ないなぁ、でも、ここ初心者コースだし許してほしいなぁ、と思うのです。

先日、少年が一人で泳ぐを練習をしていた。小学校高学年程度の男の子だ。それほど身体は大きくなく、細身だが、必要なところに必要なだけの筋肉が付いているのが分かる。僕が通っているプールのコースは夕方5時から始まる夜のコースなので、子供の利用者はほとんどいない。いたとしても、親子で来ていることがほとんどなので、子供ひとりだけというのは珍しい。どういう経緯で、この時間帯のプールに練習しにきたのかは分からないけれど(その日以降、見ることがなかったので、さすらいのプール荒らしなのかもしれない)、とにかく泳ぐのが早い。そしていつまでも泳ぎ続けている。プールの端でターンを何回も行い泳ぎ続けている。もし、プールが25メートルではなくて、とんでもなく長いプールだったのなら、きっと少年は水平線の果てまで泳ぎ続け、そして水平線の果てから戻ってくるに違いない。それくらい少年は泳ぎ続けていた。
あまりの泳ぎっぷりに周りのおじさんスイマーやおばさんスイマーたちも目を見張っていた。中には声をかけたり、アドバイスしてほしいという人までいた。少年は声をかけられたら二言ほど話し、アドバイスを求められたら、3回ほど自分の動きを説明して、そしてまた泳ぎ続けた。バタ足、クロール、平泳ぎ。特にクロールをしている少年の姿はマブチの水中モータで泳ぐ工作人形のようで、僕はくるりの「水中モーター」を頭の中で再生し、水中ウォーキングをしながら彼の泳ぎを眺め続けていた。なぜ、この時間に唐突に現れたのだろう?という疑問と、よくあの小さな身体にあれほど泳ぎ続けるスタミナがあるもんだと感心していた。たしかに子供のころは永遠に泳げるんじゃないかと思うくらい泳いでいたような気がする。家に帰るとクタクタになって寝てしまうのだが、プールにいる間は不思議と疲れを感じなかった。
僕が30分の水中ウォーキングを終えても、少年は泳ぎ続けていた。それは、良い。ただ少年が泳ぎ続けていたのは初心者コースだった。さっきから気づいていたが、少年は、初心者コースで泳ぐ中年スイマーたち
をひょいひょいと避けて進んでいく。初心者コースは2コースしかなく、それぞれが行きと帰りになっている。つまり、対面式の一車線道路のようなものだ。よって、避けるとなると対向車線にでなければならない。もちろん、対向車線となるコースにも初心者の人が泳いでいる。彼は器用にジグザグに進みよけていき、ぶつかることはなかったのだが、対向車線から飛び出してこられては初心者スイマーにはたまったものではない。僕も何度か追い抜かされたり、対向車線から飛び出してきた彼を避けたりしていた。他の初心者の人たちもなかなか自分のペースで泳げないようだった。見事な泳ぎっぷりだったけど、わざわざ初心者コースで泳がなくてもよかったのかもしれない。というより、なんであれだけ泳げて初心者コースなのか、と疑問が残る。大人の中級者の域まで達していないという謙遜だったのだろうか?(はたからみたら、上級者でも充分通用する早さだった)あるいは師である父に、15の歳を迎えるまで初心者コース以外で泳いではいけないという決まりを言いつけられているのかもしれない。
あの日以来、少年の姿は見ていない。昼間のコースで泳いでいるのかもしれないし、やはりさすらいのプール荒らしだったのかもしれないが、いまは誰も知る人は、たぶん、いない。

2016-05-21 | Posted in hakariuri

ライター紹介

西出 元

Nomiru ディレクター、撮影、イラスト、会議中に腹が減ったと晩御飯へと促すことを主に担当。企画が進まない原因の一人。
ディズニーランドとUSJに行ったことがなく、それに対する憧れが高まっていき、ハードルが上がりすぎて逆に行けなくなっているが最近の悩み。
好きなお酒は辛口の冷酒。好きな肴は白子ポン酢。


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