酒とアート、飲むと観るでノミルです

シェイプ・オブ・ウォーター は映画的な仕掛けに満ちた繊細なお伽噺だった

この週明けに映画を立て続けに2本観ました。

ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』とソフィア・コッポラ監督の『ビガイルド 欲望のめざめ』です。

もう一本、『スリービルボード』も観たかったのですが、気付いたらすでに上映が終わっていたのでした。

観たい映画は、観たい時に観るのが一番ですね。光陰矢の如し、後悔後先立たず。

ただ調べてみると、4月から大津で上映されるらしいので、根気があれば観に行ってみようと思います。

『シェイプ・オブ・ウォーター』のはなし。

ギレルモ・デル・トロ監督と言えば、日本のロボットアニメーションへの愛が爆発していた『パシフィック・リム』や、鬱展開が炸裂していた『パンズ・ラビリンス』が有名ですが、今回は、その『パンズ・ラビリンス』を連想させるようなお伽噺系の話し。

 

 

60年代のアメリカ、軍の研究所で掃除係(殺し屋という意味ではなく、ふつうの掃除のおばちゃん)をする孤独な中年女性のイライザと、研究所に運ばれてきた半魚人(ギルマン)との恋の物語です。

半魚人といっても、人魚姫のアリエルみたいな人間寄りの魚ではなく、手には水掻きがあり、皮膚はヌメヌメし、色も青緑だし、二足歩行で歩くこと以外はほぼ魚の、60年代の怪奇ホラー映画に出てきそうなザ・半魚人といった出で立ち。

アマゾンの奥地で捕獲されてきたという筋書きから、最後は巨大な怪物に変身して、研究所の人間を皆殺しにするのかと思いきや、そういうこともありませんでした。なに言ってるんだ。ギレルモ・デル・トロ監督だぞ。ハリウッド界のトトロだぞ。そんな無粋なことはするもんかい。と言った声が聞こえてきそうですが、いやぁ、ほんとそのとおりです。失礼いたしました。

主人公の女性であるイライザは、幼少期に受けた傷が原因で喋ることができないというハンディキャップを背負っています。耳は聞こえますが、会話は基本的に手話で行い、理解ある友人(黒人のおばさんと、世間から取り残された絵描きとこれまた世界からつまはじきされている人たち)だけが彼女の話す言葉を”訳せる”ことができるのです。

通常、そのようなハンディキャップをもった主人公で、なおかつお伽噺を主軸とした物語であれば、過剰なまでの悲惨な運命を描きそうなものですが、これは”大人の”お伽噺。彼女は自分のハンディキャップを受け入れ、それなりに恵まれている毎日でありながら、でも、もし自分が普通に喋ることができていたら、ということも半ば諦めながら夢を観ている女性です。同じ時間に起き、同じ食事をし、恋人がいないので(ただ恋愛に対する憧れはあるので)自慰行為にふけ、数少ない友人たちと交流する毎日。仕事は掃除係で、モップを掛け、床に貼り付いたガムをこそぎ落とす毎日。彼女の喋れないことは、「自分と世界のあいだに隔たりがある」メタファーであり、状況が違えど、どこにでもいる少しさびしい普通の人なのです。
ただ、キャラクターの設定だけでいえば、喋れないことはメタファーでしかないですが、映画としての仕掛けとしては別の話です。彼女が行う手話の内容は字幕で説明される訳ではなく、身近な友人が代わりに会話の流れで説明してくれます。喋れない彼女の感情や言いたいことは表情や仕草でしか表現できず、それこそが映画ならではの繊細な身体的な表現であり、彼女の考えや思いがセリフよりもストレートに映像として伝わってくるのです。小説であれば、どうしても彼女の”言葉にできない”考えや思いは、どうしても言葉として表現されてしまいますが、映画あれば、彼女の表情や仕草から読み取るしかありません。

かつて映画監督のスタンリー・キューブリックは、大人の観客は内容を理解するのにセリフに頼りすぎている、映像だけで判断する子どもたちのほうが、映画のストーリーを理解できていた、といったような発言していたそうです。

つまり、彼女が喋ることができないのは、キャラクターの設定以上に、彼女の繊細な気持ちの変化を観客にセリフという形で固定させてしまうのではなく、彼女の顔や行動を観客が能動的に読み取ることによって映画に没入し、観客それぞれが彼女を理解することができるという仕掛けなのです。彼女がこう言ってから、こういうことだよね、ではなく、あの表情はきっとこういうことを考えていたんだよ、というほうが、より彼女に親密になれるような気がしませんか?

映画ではもちろん、ギレルモ・デル・トロ監督ならではの凝りまくった美術やクリーチャー造形、独特のテンポなど語れることはたくさんありますが、それをいま話すというのは無粋というもの。ぜひ、劇場でみてください。

次回はソフィア・コッポラ監督の『ビガイルド 欲望のめざめ』における映像のリアリズムについて書ければと思っています。

 

 

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2018-03-24 | Posted in hakariuri

ライター紹介

西出 元

Nomiru ディレクター、撮影、イラスト、会議中に腹が減ったと晩御飯へと促すことを主に担当。企画が進まない原因の一人。
ディズニーランドとUSJに行ったことがなく、それに対する憧れが高まっていき、ハードルが上がりすぎて逆に行けなくなっているが最近の悩み。
好きなお酒は辛口の冷酒。好きな肴は白子ポン酢。


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