酒とアート、飲むと観るでノミルです

忘却のうどんたち

udon

そういえば、最近うどんを食べていない。
だから、なんだと言われたら、なんだろうね、と返すしかないのだけど、よくよく考えると、うどんをそこまで食べなくなったきっかけって、やはり讃岐うどんを食べた頃からではないだろうか。
やっぱり、美味しくてなおかつ安いうどんを知ってしまうと、気軽にね、700円だか800円もするような、それなりにおいしいんだろうなぁ、でもやっぱ讃岐のうどん比べるときっと劣るんだろうなぁ、と思ってしまい、うどんを食べようと思わなくなってしまう。もちろん、そのうどんが讃岐うどんと比べて本当に劣っているのかは分からない。もしかしたら、ものすごく美味しいうどんで、そういう考えはものすごく損をしているのかもしれない。
しかし、讃岐のうどんを知ってしまったいま、大阪や京都でうどんを食べようという気持ちにブレーキがかかってしまっているのも、やはり、事実である。おそろべき中毒性。もはや、讃岐のうどんじゃないとうどんと認められないなんて。讃岐うどん、なんか入ってんじゃないか。

ただ、その美味しい讃岐うどんにも問題点というか、困った点がある。
僕みたいな関西の人間が、讃岐うどんを食べに行くとしたら、だいたい一泊二日でうどんツアーをする訳でして、だいたい1日の4件から5件くらい回る。するとどうだろう。どれもおいしいのだ。
うどんブームの影響でガイドブックがどんどん洗練されてきたのか、ハズレというものがない。
3件目をまわったあたりで、お腹もだいぶ膨れてきてはいるけど、うどんを啜ると「あぁ、おいしいね」となってしまう。
それはいい。それはいいのだ。
問題は、どれもおいしいんだけど、あとで振り返るとおいしかった以外に味が全然思い出せないことである。
そんな馬鹿な、何を喰ってたんだ。と怒る方もいらっしゃると思う。
しかし、目を閉じて思い出してほしい。香川の店達を。
外観は…思い出せますね。人が並んでいますね。内観はどうですか?あの店は綺麗だったなぁ、とか、製麺所みたいなところの一角がお店なんだよね、とかは思い出せるでしょう。しかし、どうでしょう。そこからうどんを頼み、うどんを食べ終えたところまでの、あなたの記憶は鮮明ですか?いや、鮮明でなくてもいい。3、4件回ったとして、あなたはそれぞれのうどんの違い、出汁の味の違いを言葉に出来るだろうか?
正直に言おう。私はできない。
もはや、おいしいとしか記憶は残っていない。さっきも書いたように外観や内観は思うかべることはできる。しかし、うどんの違いがどうだったかというと、それはまったく思い出せない。
いや、もちろん、同じ味だったという訳ではなかった。(たぶん)それに香川だ。激戦区、という言葉さえ軽く聞こえるほどのうどん激戦区だ。それぞれの店は切磋琢磨して、おいしいうどん、おいしい出汁を提供しているに違いない。味だって違いがあるはずだ。
なのに、それが、どうして、ただ「うどん、おいしかったね」という一元化された記憶になっているのか。
答えは簡単で、ただただ単純に、安くておいしい、いっぱいお店を回ろう、ということで、うどんの情報を頭に詰め込みすぎて、結果として「おいしかったね」としか残らなかった。さらに、うどんの味の僅かな味の違い、出汁の微妙な味の違いも、やはり情報過多で、その差異が無視された状態で思い出として残り、結果として、やはり「おいしかったね」としか残らなかった。…と考えられるのではないか。
皆さんはいかがだろうか。
もちろん、地元の人たちは、我々みたいに一泊二日の「にわかうどん好き」ではないので、落ち着いてうどんを食べてらっしゃる訳ですから、その違いもきっと分かってらっしゃるに違いない。味もおぼえとらんのに、讃岐のうどんのせいでうどんが食えないとか何様だ、ときっと怒られるのだろう。いや、おいしかったことだけは覚えているんです。許してください。

ただ、困った点とはいいながら、こういう「ただただ、おいしかった」ということだけを記憶されている食べ物ってけっこう幸せなことではないかとも思う。
映画なんかでもそうなのですが、細部まで覚えている面白い映画もあれば、映画館からでた瞬間に「話の筋はなんだったっけ?でも面白かったよなぁ」という感覚になる映画もある。だいたいそう映画ってコメディであることが多い。そして、そういう感覚って見終わった後に良い気分になっていることが多い。
おいしいうどんを食べたあとも、たいてい清々しく、満たされた気持ちになる。
そして、忘れてしまったあの味を求めて、またうどんを食べに行き「あぁ、やっぱりおいしいじゃない」となって、帰って、凝りもせずに「おいしかったね」という記憶だけが残って、さらにまた数年後に香川に訪れる。あ、なんだか観光地として、理想的なループができているじゃないか。

ふーむ、そうか、僕が思う困った点も含めて、讃岐うどんの良さなんですね。
なんだ。うどんって、やっぱり、幸せな食べ物じゃないか。

 

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2016-10-28 | Posted in danpen

ライター紹介

西出 元

Nomiru ディレクター、撮影、イラスト、会議中に腹が減ったと晩御飯へと促すことを主に担当。企画が進まない原因の一人。
ディズニーランドとUSJに行ったことがなく、それに対する憧れが高まっていき、ハードルが上がりすぎて逆に行けなくなっているが最近の悩み。
好きなお酒は辛口の冷酒。好きな肴は白子ポン酢。


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